3.312018
流鏑馬デモンストレーション・アメリカ公演
~「馬」と「桜」がつないだ縁~
「桜流鏑馬(十和田流鏑馬観光連盟)」世界へ
流鏑馬デモンストレーション・アメリカ公演同行レポート
写真・文 中村 悟
きっかけは2月中旬に届いた1通のメール。送り主はアメリカ・在アトランタ日本国総領事館。内容はアメリカでのデモンストレーション出演オファーだ!
在アトランタ日本国総領事館が管轄する4州では、様々なところで「桜まつり」が開催されているらしい。その中で、アトランタ近郊の都市「コンヤーズ(Conyers)」の「ジョージア国際馬術場(Georgia International Horse Park)」にて行われる、3月24日・25日の第37回桜まつり(Conyers Cherry Blossom Festival)が舞台となる。
日本企業が桜を植樹したことがきっかけで始まった祭りということもあり、コンヤーズ市は日本とのつながりを大切にしている。今ではジョージア州全域での知名度も高く,コンヤーズ市の地元の人々の自慢となるにまでに成長したこの桜まつりで,米国南部でまだ誰も見たこともないような「ホンモノの日本文化」を紹介したいと考えていたところ、「桜」そして会場である「馬術場(馬)」という要素から、青森県十和田市で毎年「桜流鏑馬(さくらやぶさめ)」という流鏑馬競技イベントを開催している主催団体「十和田流鏑馬観光連盟」にたどり着いたという経緯らしい。
私が所属している「十和田乗馬倶楽部」も加盟しており、流鏑馬競技連盟は推奨する青森から岩手県にまたがる南部地方で伝承されてきた南部流鏑馬をベースに、群書類従「笠掛記」の検証結果を基にした競技選手および競技馬の育成を担っている。そんな私たちにとっては、流鏑馬デモンストレーションの実施は決して難しいことではない。近いところでは昨年9月には十和田市の委託により、「あおもり10市大祭典in十和田」(来場者19万人)で披露するなどそのノウハウはすでに備えてはいる。加えて、競技大会イベントの「桜流鏑馬」(4月)・「世界流鏑馬選手権」(10月)は15年以上毎年開催し、市の観光イベントとしての定着も果たしている。特に「桜流鏑馬」は、満開の桜並木の下を全国から集まった女流騎手だけが出場する世界でも類の無い馬事イベントとして、第20回ふるさとイベント大賞の最高峰である大賞(内閣総理大臣賞)を受賞するなど、対外的にも評価もいただいている。
しかしながら、海外での実施となると話は違ってくる。普段から調整している流鏑馬ホース、さらには道具(的や弓など)など全て現地で調達するしか方法は無く、もちろん迎え入れる現地スタッフも流鏑馬イベント運営の経験がない。
ほとんどは着いてからの準備しかないことに不安を覚えながらも、国内での競技人口拡大は当然、さらには世界に誇る日本文化として広く世界へ広く発信したい当会にとっても絶好の機会と捉え、このオファーを引き受けた。
招待は2名までということで、演武する競技選手として上村会長、そしてホーストレーナーの私だけ。これに全国流鏑馬女子部関東支部長の石田直子さんがサポートとして同行協力していただき、計3名での渡米となる。
3/21(水)
青森県・七戸十和田駅から新幹線で東京へ、そこから電車で成田空港。フライトは13時間。移動距離約12,000キロ、ほぼ1日をかけてアトランタの空港へたどり着いた。日本との時差は約14時間。
空港には館用車が待機しており、今回滞在中行動を共にする、在アトランタ日本国総領事館のブライアンさん(通訳・案内)とリッキーさん(滞在中の運転)が出迎えてくれた。
3/22(木)
2日後には桜まつり・デモンストレーション本番。限られた時間の中で実現に向けて、関係各所を回る。まず午前中は、流鏑馬デモに使う馬の確認。アトランタ市内から約1時間、ジョージア州コビントンの「ファルコンウッドファーム(Falconwood Farms)」を訪問。ここはホースバックアーチェリーに積極的に取り組んでおり、今回の馬を手配してくれた乗馬クラブだ。
出迎えてくれたのは、ぶち毛の女の子「ベイビー」ちゃん(9歳)と、ホースバックアーチェリー認定指導員のキム・バトラー(Kim Butler)さん他トレーナーの方々。
初めての馬とのコンタクト、1年前まではバレルホースだったというベイビー。初めてであろう日本人に戸惑っているように見えたが、すぐに慣れてきた様子。わずかな時間で最終的には駈歩での騎射ができるほどになった。当初最も心配していた「はじめての馬で流鏑馬」だが、優秀なベイビーのおかげで安心できた。
その後は、キムさん他スタッフの方々と、お互いの活動を話したり、日本の和弓とアーチェリーの違いを体験したりと交流を深めることができた。
昼食時には、ジョージア美徳弓道会会長のエドウィン・シムズ(Edwin Symmes)さんも合流。エドウィンさんは、弓道錬士五段を持つ方で、今回、ぜひ流鏑馬を間近で見たいと熱望して交流会に駆けつけてくれた。
車椅子での生活をしている生徒を持つエドウィンさんは、上村に対し、騎乗中での弓使いや練習方法などを熱心に質問しており、私たちとの会話の中からヒントを見つけたようで、大きく頷いている姿が印象的だった。
午後は移動の途中で、映画「風と共に去りぬ」の舞台となった屋敷トウェルブ オークス イン(Twelve Oaks Inn)に立ち寄り、今回唯一の観光もそこそこに、日曜日の流鏑馬デモンストレーション会場となる「フラガナン邸」の下見と準備打合せ。こちらの豪邸の庭の一角を使い、100名ほどのギャラリーの前で行うとのことで、邸宅の方々とも打合せを行い、急ピッチで準備を進めていった。
夕方17時、早めの夕食を終えて向かったのは、アトランタより車で北に30分のロズウェル市にある「エルキンズポイント中学校(Elkins Pointe Middle School)」。生徒数は、6~8年生までで総勢約1,100名で、45カ国以上の生徒が集う国際色豊かな学校である。
ちょうどこの日は、学校で一番大きなイベントの「インターナショナルナイト」が行われていた。このイベントは、様々な国の料理やダンス・歌などのパフォーマンスや展示物などが楽しめ、多様な国際文化を味わえるもので、父兄や地域の方々も集まり、総領事館スタッフも驚くほどの非常に賑やかな会場となっていた。
私たちも、けん玉や折り紙などが並ぶ日本ブースを借りて、明後日行う流鏑馬デモンストレーションの告知や、和服の着付けなどを体験させてあげた。さらには、ステージにて日本からのゲストとして紹介してもらい、簡単な流鏑馬紹介をすることができた。流鏑馬という日本文化に触れたいと、会場には,ロズウェル市長も来訪。一緒に記念写真も撮影した。エルキンズポイント中学校には日本語プログラムがあるため、生徒の日本文化についての関心は非常に高く、パワフルな生徒たちの質問攻めに対応しているうちに、あっという間に滞在2時間が過ぎ、夜9時過ぎホテルに到着したあとは、記憶が無いほどすぐに眠りについてしまった。
3/23(金)
本番前日でも、国際交流活動は続く。午前は本日予定のジョージア州立大学での講演打合せと、デモンストレーション会場の準備打合せ。特に本番会場は今日の夕方からしかリハーサルが行えず、それまでに必要な設営備品手配をギリギリで手配することに。流鏑馬披露は在アトランタ日本国総領事館にとってもちろんのこと、ジョージア州での初の試みであり、どのように準備しておけばよいかわかる方はいないので、この直前での段取りとなってしまいましたが、私たちの説明に一生懸命耳を傾けてくれた、総領事館広報担当のローラさんが通訳し、関係各所への手配を迅速に行ってくれた。馬の手配、弓の手配、会場の設営と多くの方々の努力と協力によって流鏑馬イベントが作られていくのは、日本もアメリカも同じだと感じた。今回、弓はサウスカロライナ州弓道連盟のブラックウェル玲子先生がとなりの州から275キロ、時間にして2時間半の道のりを車で走って届けてくれた。
午後2時からは、「ジョージア州立大学(Georgia State University)」にて、私たちとともに日本からのゲストとして招かれた福岡の書道パフォーマーの中島姉妹さんと一緒に講演を行う。日本文化に興味のある80名ほどの学生に対し、流鏑馬の説明や和弓と洋弓の違いなどについての解説や立ち透かしの実演などを行った。加えて、各国に所在する日本の在外公館で日本事情を紹介するために外務省が多言語で制作している広報ビデオ「ジャパン・ビデオ・トピックス」で取り上げられた流鏑馬競技紹介映像も放映したことにより、聴講者は理解を深めることができていた。その甲斐もあり、ディスカッションでは深い質問などもでて、改めて日本文化へ関心の高さを感じた。
夕方5時過ぎ、ようやくイベント会場である「ジョージア国際馬術場(Georgia International Horse Park)」での会場設営が始まった。
今回は、アトランタオリンピックの馬術競技会場となった広いアリーナの形に合わせ、ゆるくカーブさせた100mの走路に的を2箇所設置することとした。
さすがオリンピック馬場会場!広さも観客席の数も日本とは規模が違う!!
総領事館が繋いでくれたネットワークがひとつに繋がり、作業は急ピッチで進んだ。馬のオーナー キムさんから的を準備してもらい、弓道錬士のエドウィンさんも三日間連続で応援に駆けつけた。走路のポールレンタル手配も間に合い、それをジョージア国際馬術場のスタッフと総領事館スタッフ全員で走路を作り、多くの方の尽力により、限られた時間の中で流鏑馬走路を完成させることができた。
ベイビー(馬)も到着し、いよいよ調整開始。昨日からしっかりと調整をしてくれていたキムさんが最初に1走し、すぐに乗り代わり。石田・上村ともに練習を行い、問題なく終了。
辺りはすっかり暗くなった夜8時。みんなで作り上げた充実感と明日への期待が高まった。
3/24(土)
ついに「コンヤーズ桜まつり(Conyers Cherry Blossom Festival)」開幕!!音楽フェスや多数の販売テントなどで会場は大盛り上がり。フードも充実。
日中私たちは、総領事館が用意してくれた日本ブースでプロモーション活動。「桜流鏑馬」のPRや、夕方から行うデモンストレーションの案内、青森県や十和田市からあらかじめ配送しておいた観光パンフの配布など、つたない英語と日本語を交えながら奮闘。他のブースとは違う日本ならではの雰囲気に、来場者も興味津々だった。
16時、本番に向けての最終調整。走路ポールの位置確認など、微調整を行いながら周囲を見渡せば、そこはアトランタオリンピック会場。ここに世界各国から多くの人や馬が集まり競技していたと思うと、改めて今回行う流鏑馬デモはすごいことをしようとしているんだという実感と緊張が襲ってきた。
ここでなんとキムさんたちから、ホースバックアーチェリーの的を改良して作ってくれた、流鏑馬デモンストレーション用の的を用意してもらう。無事に成功するよう、私たちの要望に合わせてくれた心遣いが嬉しい。
17時半、アリーナの観客席にも徐々に観衆が流れてきて、いよいよ本番!
ここでアリーナにある巨大モニターに「TOWADA YABUSAME」の文字が浮かび上がり、出演者の写真が映し出される。こんな演出、日本のイベントでもやったことがない豪華なイベントだと感心。現地司会者が英語でラジオDJ風に実況する中、出演者が登場。
まずは、試走でキムさんが1走。次に登場するのは石田直子さん。当初はサポートとして同行した本人も、まさか舞台に立つことになるとは思いもしなかったはずだが、楽しみながら素馳(すばせ・・・矢を射らず走る)1本と本走3本を務め上げた。
急遽、披露する事になった石田さん。楽しみながら大役を務めました
そしていよいよ上村鮎子登場。私は関係者しか居られない的側のベストポジションで撮影をしていたため、騎手が騎射のプロセスを表現しながら一射一射的中するたび、日本とは雰囲気が違う大きな歓声があがる光景を目の当たりにすることができた。
上村が3走とも全射的中をし、無事に流鏑馬デモンストレーション終了。最後は石田さん、上村、そして私も一緒に、日本からのスペシャルゲストとしてアナウンスされながら、ゆっくりと返し馬で退場していった。時間にして約30分の夢のようなひとときを体感することができた。
その日の帰りは同行スタッフのブライアンさん、リッキーさんも一緒にレストランへ寄り道。ささやかな打ち上げを行った。
その食事中、ブライアンさんから思いもよらぬ話を聞くことができた。ベイビーを貸してくれたホースバックアーチェリーのキムさんが、「”YABUSAME”はなんて美しく丁寧なんだろう!私はこれがやりたい!!」と力説していたらしい。その言葉で大きな役目を一つ果たせた気分だった。
3/25(日)
コンヤーズ桜まつり2日目。この日も日本ブースでプロモーション活動。会場には着物姿の来場者も見られ、日本文化が広がりを感じることができた。
お昼にはイベント会場メインステージに篠塚隆総領事とともに上げていただき、日本からの来賓として紹介されるなど、ゲストとしての扱いに気恥ずかしさを感じた。
14時を過ぎた頃に、次の流鏑馬デモンストレーション会場となる「フラガナン邸」への移動のため、後ろ髪を引かれるように会場を立ち去る。
アトランタの閑静な住宅地にたたずむ邸宅の前庭が会場となる。会場に来てみると、そこには100名近いギャラリーが!!
昨日のデモンストレーションで使ったポールを運んでくれた同行スタッフや邸宅の管理担当の方々とともに急いでコース設営。最後までお世話になりっぱなしのキムさんにベイビーの調整をしてもらい、本番開始。私の目からは全ての人が大富豪にみえるようなギャラリーを前に、平常心でいつも通りの演武を披露した女流騎手2名。ここでも流鏑馬デモンストレーションは盛況のうちに終えることができた。
アトランタ最後の夜は、総領事公邸に呼ばれての夕食会。篠塚総領事とともに数日ぶりに食べた日本食にほっとする気分を味わうことができ、総領事館スタッフの心づかいが嬉しかった。また、総領事から頂いた「美しい日本の文化を伝えることができた」という言葉も、役目を果たすことができたことを実感すると共に、安堵することもできた。
3/26(月)
いよいよ今日はアトランタを離れる日。朝早くホテルを出て、昼前に空港に到着。最後まで一緒にブライアンさん、リッキーさん他、総領事館スタッフの方々に見送られながら、騎乗した12時間のフライトでは様々な記憶とデモンストレーション成功のために動いてくれた方々の顔を思い出しながら帰路へとついた。
今回、米国アトランタ初の流鏑馬デモンストレーション披露をして感じたことは、言葉の違い、文化の違いはあったにしても「流鏑馬を披露する」というひとつの目標に、皆が協力して成功したのは大きな成果となる。そして、学校での講演や、流鏑馬を観てくれた来場者の「Amazing(アメージング)!!」という言葉から私は、きっと日本の流鏑馬文化に興味を持ってくれたに違いないと感じている。
アメリカに滞在した6日間は、本当に多くの方々の繋がりと尽力を常に感じ、当初は「不可能では!?」と言われていたことが、「可能」になったのもその繋がりによるものだと思った。滞在中の同行スタッフ・ブライアンが話した「世界は人が動かしている」ということを、肌で感じることができた。きっと、この出会いと成果は、流鏑馬をさらに世界へと導く大きな一歩となることは間違いない。
(2018年4月17日公開)
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